長野県長野市権堂町の商店街アーケードにある不動産会社「共栄不動産」の店先で、カップ麺の容器で簡易に作った「巣」から1羽のツバメのひなが巣立った。ひなはその1週間ほど前にアーケード上部の高さ約6・5メートルから落ちたとみられ、自力で戻れなくなっていた。同社の専務取締役の宮沢栄司さん(59)の長女で大学院生の小春さん(28)が見かねて容器の巣を設置。その後親鳥が再び餌を運び始め、すくすく育った。
託された思い
6月23日朝、栄司さんが出勤すると、店先に段ボールの小箱が置かれ、手書きのメッセージとともにひなが入っていた。匿名で「ツバメのひなが落ちていたので誠に勝手ながら保護しました。よろしくお願いします」と書かれ、ひなは元気のない様子だったという。栄司さんは日本野鳥の会長野支部に所属。巣から落下した野鳥は、自然に任せて人間が手助けをしないほうがいいと考えていたが「託されたものは仕方がない」と、救う方法を調べた。
代用の巣を設けることに
アーケードの天井付近にある元の巣は、高所作業車などを使わないと届かない。ひなの保護方法に関する情報をインターネットで探していたところ、小春さんが、カップ麺の容器で代用の巣を作る方法を紹介する福井自然保護センター(福井県大野市)のページを見つけた。元の巣の近くに代用の巣を設けることで、親鳥がひなに再び餌を与えるようになれば―と期待した。
餌を運び始めた親鳥
同日夕、小春さんは早速、半分に切ったカップ麺の容器を店舗2階の外壁に粘着テープで取り付けて巣を作り、ひなを入れた。栄司さんは、その真上にある本物の巣で4羽のひなの兄弟が親鳥に餌をもらうのを見て「落下したひなにも餌を運んでくれるだろうか」と心配したが、間もなく親鳥がカップ麺の巣にも餌を運び始めるのを確認して安堵(あんど)した。
ひなが冷えないように…
店舗に人がいない夜間は、ひなが冷たくならないようにと、小春さんが巣に靴用のカイロを仕込ませた。店先は親鳥やひなたちのふんで汚れたが、栄司さんは毎朝掃除しながら「大変だよ」と笑って成長を見守ってきた。
迎えた巣立ち
6月30日午前、アーケード通りには、頭上を見上げる宮沢さん親子の姿があった。目線の先はカップ麺の容器の巣ではなく、本物の巣。自力で羽ばたき、1週間ぶりに古巣に戻ったひなが兄弟たちと一緒に、親鳥に餌を求めていた。その後、ひなたちは無事に巣立ちを迎えた。